ミステリを書くのがむずかしい5億の理由


・小説を書くのはむずかしい

 ミステリとはミステリ小説である。小説を書くのはむずかしい。ゆえにミステリを書くのはむずかしい。でもこれって何も言ってなくね? この項目意味なくね……。そんなことないよ。そうか。ならいいんだ。


・キャラクターが魅力的でなければならない。

 得に大切なのは語り部と探偵役だ。探偵役の魅力でミステリは支えられている。どのように探偵役の言葉や行動に説得力をもたせるのか、作者の手腕が問われる。これがむずかしい。


・事件がなければならない

  事件を考えるのはむずかしい。新聞とにらめっこしたり既存作を参考にしたり現実と向き合ったりして頭をひねらさなければならない。そして魅力的に謎を描かなければいけない。これがむずかしい。


・ミスリードはむずかしい。

 ミスリード描写を書くと何が真実なのか作者自身がわからなくなってしまう。たったひとつの真実を見抜ける審美眼がないと、ミステリを書くのはむずかしい。
 


・解決がなければならない。

 そうじゃないかもしれない。でも一応書いておくと解決を書くのはむずかしい。解決というと小説のラストシーンだ。クライマックスだ。そこまで書くのは疲れる。


・ロジックがしっかりしていなければならない。

 ミステリにおいて重要なのはトリックよりもむしろロジックだ。トリックは有限だがロジックは無限である。順列組み合わせ的な傾向を持つトリック(結末/犯人)に対し、真相へのアプローチは自由度が超高い。ロジックの美しさによってミステリの優劣は決まるのである。でもちゃんとロジックをロジックするのはむずかしい。


・でもほんとうにそうなのか?

 ここまで書いたことを全部無視したミステリがあってもいいんじゃないか? 人がみんな自称した瞬間小説家になれるように、すべてが破綻していてもミステリを標榜すればミステリになるんじゃないか? 名乗りたいもの名乗ったもん勝ち、青春なら、なのではないか?


・それでは駄目なんだ。

 ミステリはエンタメなんだ。ある程度の形式美がいるんだ。それは必要悪のようで絶対なんだ。純文学の世界ならまだしも、作者の主張がぜんぶすっぽりそのまま通るわけがない。ミステリとして破綻したミステリを誰が進んで読むだろうか。いくら作者がわめいても話は通らない。そうは問屋がおろさない。灰色の脳細胞にレーザービームを撃たれて心臓を貫かれるのが関の山だろう。そうなってしまえば元も子もない。まったくもって本末転倒だ。だからしこしこと努力するしかないんだ。最高ではないが比較的すてきなミステリを書くために。


・それでも、まったく見たことのないミステリが作れるとしたら?

 思えばミステリとはボーダーレスなジャンルだ。ある種の批評であり、純文学であり、SFであり、ファンタジーだ。私小説であり音楽であり自動車でありアルコールだ。自己であり他者であり世界であり認識だ。それはちょっと言い過ぎだし意味わかんないけど、とにかくなんかあれじゃん、すごいじゃん。ちょっとめんどくさくなってきたからまとめを投げ出すけど、そんなことを俺はエラリー・クイーンの国名シリーズを読んでいて思ったよ。そんなわけで次回からはクイーンについていろいろ書いてみようかと思う。書かないとも思う。よろしくおねがいします!