スプラトゥーン

 スプラトゥーンをやっていた。ひたすらやっていた。六月のはじめにwiiuごと買ってから今までずっとやっていた。最初はナワバリバトルだけだった。一緒にスプラトゥーンをはじめた友だちと通話をしながら遊ぶスプラトゥーンはとても楽しかった。ガチマッチが解禁されるとウデマエの上昇を目指してひたすら研鑽を積んだ。どこに潜伏するのが強いのか、どの場所ならどの武器に有利が取れるのか、人数差を見ること、制圧したら塗って足場を固め、敵の侵入ルートを抑えること、エリアを取られたら仲間と足並みをそろえてスペシャルで打開すること。ぼくは着々と力をつけていった。スプラトゥーンをプレイし、寝て起きて、スプラトゥーンをして……そんな毎日だった。
 気がつくとウデマエはカンストしていた。さらなる実力をつけるため、ニコニコ動画の生放送を見て強い人と同じ部屋に入り、ガチマッチをやった。強い人を知るたびにモチベーションが上がり、もっと強くなってやろうという気になれた。いろんな武器を試した。いろんな人と出会った。
 だけどいつの間にかぼくと一緒にスプラトゥーンをやる友だちは減っていた。その現象はぼくの実力が上がるのと比例しているように思えた。ぼくがみんなにどうすれば勝てるようになるのか、どう立ち回ればいいのかを伝えても、あまりよい反応は得られなかった。周りのみんなは熱心に語るぼくに冷めた目を向けていたように思えた。みんなはぼくから離れていった。それは強者の証だと思っていた。頂に辿り着いた者の代償なのだと。誇らしさもあった。弱い者が諦めるのは仕方がない。足りない努力を棚に上げ、敗北を味方のせいにして自分の立ち回りを省みないものが強くなれるわけがない。ぼくはひとり、またひとりと仲間を切り捨てていった。
 ぼくはひたすら敵を倒した。敵を倒してガチマッチに勝つ。それだけを繰り返した。
 ある日ぼくは疑問を抱いた。
 なぜぼくはスプラトゥーンをやっているのだろう。
 このゲームって、何が楽しいんだろう……?
 買ってすぐのことを思いだそうとした。ぼくは笑っていた気がする。だけどその景色は、ピントの合わないカメラみたいにぼやけてうまく像を結ばない。ぼくは……ぼくは……。
 ぼくはひとりだった。
 そのことに気付いた瞬間、途方もなく広がる荒野にぽつんと立っているような感覚に陥った。たまに誰かを発見するが、ぼくはすぐさま照準を合わせ、インクを撃って倒してしまうのだ。あんなに鮮やかだった世界は色を失っていた。ぼくの周りには倒すべき敵しかいなかった。
 ぼくはスプラトゥーンをやっている。イカを操作し、塗り、潜伏し、インクを撃ち、敵を倒す。機械的に指を動かし、試合に勝つ。何の表情も浮かべないで。それは確認作業だ。勝てるのは当たり前。ぼくは強いから。だけど、なんだろう。たまたま同じ部屋になっただけの仲間が、勝利間際に叫ぶマンメンミの声に感じる懐かしさは。ぼくが失ってしまった何かなのだろうか。
 マンメンミ。
 マンメンミ。
 いやに耳に残って離れないな。
 マンメンミ。
 マンメンミ。
 頬に手を当てると指が濡れている。
 マンメンミ。
 マンメンミ。
 無意識に泣いていたのか。
 マンメンミ。
 マンメンミ。
 でもごめんよ。わからないんだ……。

 マンメンミ……。
 マンメンミ……。