仮面ライダーキバ24話まで雑感

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 仮面ライダーキバがちょうおもしろい。ちょうおもしろいんだけどいろいろとツッコミどころがある。つまりはいつもの井上敏樹脚本のストーリーなんだけどおもしろいんだからいいだろ!
 それは父と子の、バイオリンを巡る物語……。ウェイクアップ!運命の鎖を解き放て!
 つっても4話までのつかみでかなり視聴者を振り落としてると思う。前提となる設定がぜんぜん見えない。唯一のフックである主人公の渡くんの「この世アレルギー」もなんだかなかったことになってる。さらに過去編がとてもとっつきにくい。というのも、音也さんのまわりのみなさんがそろいもそろってツンデレだからだよ! ツンデレっつーと語弊があるかもしれない。普通に嫌われてるからね! それにヒロインに魅力がないんですよ過去編。24話でデレてやっと「うおおおお」ってなったくらい。現代/過去編ともに女戦士さんがでしゃばるんだけど弱いんですよ。まったく活躍しないんですよ。なんでお前殺されないの?ってレベル。
 で、過去編では音也さんがなかなか変身しないので仮面ライダーとしての快楽が薄れてるんですよ。過去編と現代編が同時に進むって構成で、過去編ではライダーがなっかなかでてこない。そんなわけで前半は「仮面ライダー」としてのドラマの楽しさが二倍くらい希釈されちゃってるんですね。あとキャッスルドランのもっさり感。あいつが初登場したときには「え。この世界どうなってんの……」って思いますよね! でもキャッスルドランさんについてはまったく言及されないんですよ! どないなっとんねん!って感じですよ。
 あと主軸が見えにくい。一貫して音也さんの呪縛とそれに渡くんがどう対応するかって話にはなってるんですけど、いかんせん構成が構成なのでわかりにくいですよね。
 父ちゃんが作ったようなすごいバイオリンを作りたいけどできない。そんな感じで引きこもっていた渡くんがちょっと視野を広げるために社会に出てみたらあちこちに父ちゃんの影が落ちてる。つまりこれが鎖ですよね。仮面ライダーキバでは、鎖がスーツ化するっていう変身方法からして、変身は束縛されることの比喩なんですよね、たぶん。この世界では人狼さんとか半魚人さんとかフランケンシュタインさんが怪人に殲滅されかかってて、生き残りが一人ずつくらいしかいないんですね。そいつらの力を借りてフォームチェンジするわけです。キバはそれぞれの種族の血統を負って戦うわけです。キバで描かれてるのは、種族の生き残り戦争というよりは、すでに滅びかかってて社会的にとても弱い立場におかれている生き物たちが、どうやって社会に折り合いをつけていくか、ということでもあると思います。仮面ライダーシリーズは基本的に防衛戦ですよね。一方的に人間を襲う怪人がいて、それにライダーが立ち向かうって話になってる。しかし平成ライダーにおいて善悪が相対化していることは言うまでもないことです。ライダー同士は戦わなければ生き残れない。怪人にもいいやつはいる。怪人のファンガイアさんたちは他の生物を捕食するんですよね。なので人間とかは基本的に家畜でしかない。ファンガイアは人間に比べて圧倒的に強い。抵抗はできない。そんな感じでキバは生物としての最終ラインを守るために戦うんですよ! せめて人らしく生きるために。そのために弱者たちが種族の垣根を超えて協力しあってるんですね。もう感涙ものですよ。感涙ものは言い過ぎかもしれませんが、そういう生物の多様性を守るってすてきだと思います。だって教室とか見渡してもいろんな人がいるじゃないですか。DQNもいれば知障もいる。ビッチもいれば清楚っぽい人もいる。いろんな血筋がある。いろんな家系がある。そこにはヒエラルキーがあって、決してわかりあえないやつもいるけど、こいつとは合わないと思っていても話してみれば案外気があったりする。大人になるといろんな価値観が陥入し、錯綜していきますよね。でもときどきは一面的な見方でしか見れねえって思ってみたり……。社会ってだいたいそんな感じですよね。そういう人たち、みんなまとめて愛していきたいですよね。でもときどき攻撃したりされたりするんですよね。そういうのには、抵抗してもいいんじゃないかなあ、みたいな。そんな感じですよね。名護さんですよね。
 名護さんはいきすぎた暴力をふるう人ですよ。抵抗にしてもやりすぎです。過剰防衛です。明らかに人間サイドの悪い人です。言峰綺礼です。そんな彼が変身するイクサのモチーフが、十字架なんだからワロスですよね。「その魂、神の元に返しなさい」ですよね。一神教は別に信仰することはいいけど他の人に押し付けちゃいけませんよね。いろんな人がいますからね。

 そんな感じです。

 キバは井上敏樹が46/48話脚本を書いているんですね。残りの2話を書いた米村正二さんのエピソードもすてきだったと思います。井上敏樹の脚本は、テーマを前面に押し出さず、後から振り返ってみるとうっすらと「ああそういうことだったのか」と納得できる程度にばら撒かれてるんですね。それは井上敏樹のよいところでもあり悪いところでもあります。ずっと見ないと主軸がわかりにくいわけですからね。キバでは特に顕著だと思います。わたしは大好きですけどね。米村正二が書いた17・18話では、思い切りテーマに踏み込んでいると思います。
 ちょっと東映の公式ページのあらすじを引用したいと思います。
 現代で渡くんが「なんで俺って戦ってんだろ……」みたいな状態になって自分探し的な旅に出かけたあとの話です。

   ☆

17話

 2008年。気を失った渡(瀬戸康史)はキャッスルドランの中へ。次狼(松田賢二)、力(滝川英治)、ラモン(小越勇輝)に見守られる渡だが、目を覚ますと自宅の工房だった。あれは夢だったのか…。

 あの大ちゃん(高原知秀)までがファンガイアだったなんて…。ショックから立ち直れない渡は、自分が戦うことに疑問を抱き、置き手紙をして一人旅に出てしまう。
 一方、バウンティハンターとして連続強盗犯の坂口(紀伊修平)を追いつめた名護(加藤慶祐)だったが、ボタンに気を取られている隙に反撃され逃げられてしまう。逆上した名護は坂口の車を追って走る、走る…。


 1986年。音也(武田航平)はゆり(高橋優)からバイオリン少女のマミ(山崎怜奈)の先生になって欲しいと依頼される。オーディションに合格させたいというゆりに、デートをしてくれるなら、と条件を突きつける音也。仕方なくゆりは音也の条件を受け入れる。

 2008年。渡は一人アーチェリーの練習をしている女性、マミ(遊井亮子)と出会う。渡もアーチェリーをやらせてもらうが、まったくうまくいかない。そんな渡にマミも大笑い。

 1986年。小生意気なマミにバイオリンを弾かせる音也だが、「お前には才能がない」とバッサリ。怒ったマミは部屋を飛び出すが、ゆりに言われて音也は後を追う。が、音也の言うことなどに耳を貸さないマミ。とりあえず音也はマミをカフェ・マル・ダムールへ連れて行き食事をさせるが、マスター(木下ほうか)から「ツケはきかないから」とトイレ掃除を強要される。それを聞いた音也はレッスンだ、とトイレ掃除をマミに押し付ける。

 2008年。マミといっしょにスポーツクラブへとやってきた渡は恵(柳沢なな)とばったり。一人旅に出ると言っておきながら、こんなおばさんとデートォ?恵におばさん呼ばわりされたマミはついに激怒。渡を間にはさんで2人の女性は大げんかを始めてしまう。

 1986年。やってきた次狼にイクサを返せと迫る音也。2人はイクサを賭けてビリヤードで勝負することに。そんな勝負をマミにも見せる音也だが…。

 2008年。渡を巡って勝負をする恵とマキだが、アーチェリー勝負の途中、突然倒れたマミはかつてファンガイアに襲われたことを告白する。その当時の恐怖から逃れられなくなり、五輪選考会でも敗れてしまったとか。

 そんな話をしていると、ブラディ・ローズがファンガイアの出現を知らせる。迷いながらも渡はキバに変身、坂口の正体であるシースターファンガイアに立ち向かうが、今一つ技にキレがない。
 そこへ現れた名護がイクサに変身。おれの獲物だ、とキバに襲いかかる。イクサの猛攻に圧倒されるキバは…。

18話

 1986年。イクサを賭けて次狼(松田賢二)とビリヤードで勝負する音也(武田航平)。が、口ばかりでルールも知らず、次狼に圧倒されてしまう。完敗かと思われたそのとき、奇跡のショットで大逆転勝利。得意になった音也はマミ(山崎怜奈)に「演奏は閃きだ」とこじつけたような教えをする。

 2008年。マミ(遊井亮子)を狙ってシースターファンガイアが現れた。が、戦う気力を失った渡(瀬戸康史)は、キバットバット(声・杉田智和)の呼びかけにも抵抗。父が作ったブラディローズさえ叩き壊そうとする。なんとか思いとどまったものの、渡は深い悩みに落ち込んでいく。

 1986年。これまでの音也の教えがすべてウソとわかったマミはカンカン。音也のもとから逃げようとするが、追いかけてきた音也はそんなマミに「お前は親の期待に応えようと頑張っているだけだ」と鋭い指摘を。思わず言葉を失うマミに、音也は余計なことは考えず、オーディションではただ弾きたいと思って弾けと指導する。
 そのオーディション当日。ゆり(高橋優)と音也が見つめる中、マミの順番がやってきた。が、真剣に見ているのはゆりだけ。居眠りを始める音也は何度もゆりにたたき起こされる。そのときマミのバイオリンの弦が切れてしまった。それでも弾き続けるマミ、これこそが音也のいう「閃き」なのか。無事演奏を終えたマミは審査員から拍手をもらい…。
 オーディションに無事合格したマミは、ご褒美にと音也の演奏を聞かせてもらう。
「後悔しても知らないぞ」。
 謎めいた言葉とともに弓を動かす音也…。

 2008年。マミがケガをしてしまった。自分がキバに変身しなかったためにファンガイアにやられてしまったのか。自己嫌悪に陥る渡だが、手を傷めながらも必死でアーチェリーの練習を続けるマミに思わず悩みを打ち明ける。
 やれという声のために、やりたくもないことをやっている…。
 そんな渡の言葉にマミは自分の幼いころと重ね合わせる。周囲の声に惑わされてやりたくもないバイオリンをやっていた、あの幼いころに…。

 1986年。音也のみごとな演奏を聴き終えたマミは、バイオリンを辞めるという。今まで親に言われるがまま続けてきたバイオリン、一度もやりたいと思って弾いたことはなかったという。そんなマミに音也は、これからは本当にやりたいことだけをやれ、心の声に耳を澄ませろ、と忠告する。

 2008年。マミからそんな幼いころの思い出を聞いた渡。自分の本当にやりたいこと…。自分は戦えという声に従ってきただけだったのか。改めて自問自答し、そうではなく大切な物を守りたい、という自分の心の声で確認した渡。やりたいと思う戦いをこれからも続けていこう。
 一度はなえた気力を再び奮い起こし、渡はキバに変身。ファンガイアに立ち向かう。風邪をひき苦しい戦いとなったキバットは渡のために次狼、ラモン、力の3人を呼び集め、キバをドガバキフォームへとパワーアップさせる。すべての力を身に付けたキバはファンガイアを圧倒、ついに止めを刺す。

 再びファンガイアと戦う気持ちを強くした渡。それにしてもマミに「心の声に聴け」とアドバイスしたのは誰だったのだろう?いきいきとアーチェリーの練習を続けるマミを見ながら、渡は小さく首をかしげるのだった。

   ☆

 いい話だなあ。マミさんの成長と成長したあとのマミさんを通して伝わった父ちゃんの言葉、渡くんの決意が一度に書かれています。過去と現代のオーバーラップも無理なく使われていて、明らかに神回です。

 ありていにいえば少し説教くさいんですが、ときどきはそういう話があってもいいと思います。だって世界にはいろんな人がいるんですからね!

 過去編では音也さんが次狼さんに絡みだしてからずっとおもしろいです。次狼さんは過去編では音也さんとあからさまいがみあってるんですが、現代編では「音也との約束を守らなければならない」と渡くんに協力してくれてるんですよね。そういうピッコロさんみたいな関係、すてきだと思います。
 とりあえず9・10話が神回なのでキバを観ようと思った人はそこまでは我慢するべきだと思います。そこまで観て合わなかったら井上敏樹脚本が合わないということでしょう。ぼくは悲しみにくれますがだいじょうぶです。がんばって生きていきますからね!